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高松高等裁判所 昭和35年(ネ)237号 判決

理由

被控訴人主張の請求原因事実について、当事者に主要な争点となつている骨子は、要するに被控訴人は、訴外株式会社金春商会(原審における原告である。以下「金春商会」という。)が訴外庄野好忠から、控訴人の白地引受のある為替手形二通の譲渡を受け、右手形二通の振出人の白地部分を金春商会名をもつて補充したと主張するのに対し、控訴人は控訴人が右為替手形二通に白地引受をして、これを庄野好忠に交付したのであるが、その際、同人との約束で、振出人の白地部分は、庄野好忠名をもつて補充することとされていたのである。金春商会が庄野好忠から右白地手形二通の譲渡を受けたことは否認するが、かりに右事実があるとしても、金春商会のなした右補充は、補充権の範囲を超えたものである、と主張している点にある。

そこで考えるに、控訴人が、金額一〇三、〇〇〇円、満期昭和三〇年八月五日、支払地および振出地徳島市、支払場所株式会社阿波商業銀行二軒屋支店、支払人控訴人とした為替手形一通(以下「(1)の白地手形」という。)および金額九〇、〇〇〇円、満期昭和三〇年八月一〇日とし、支払地、振出地、支払場所および支払人を右と同一に記載した為替手形一通(以下「(2)の白地手形」という。)に、それぞれ、引受人として署名押印したことは、当事者間に争いがない。

証人庄野キクミの証言、控訴人本人尋問の結果により真正に成立したことが認められる乙第一、二号証、証人庄野好忠(原審第一、二回)、同庄野キクミの各証言および控訴人本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)に、右争いのない事実を総合すれば、控訴人と庄野好忠とは、昭和二八年頃から染料、塗料の売買取引をする間柄であつたが、相互に金融を得させる目的で、庄野好忠から控訴人へは、庄野好忠の長男庄野好和振出、控訴人宛の、金額一〇三、〇〇〇円および同九〇、〇〇〇円の約束手形二通を交付し、控訴人から庄野好忠へは、右(1)の白地手形および(2)の白地手形を交付したこと、その際庄野好忠は、必要があるときは、自己の名をもつて振出人の白地部分を補充し、裏書をして、他から金融を得ることができるとされていたことが認められる(控訴人本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信できない。)。

振出日、振出人の住所氏名および名下の印影、受取人の氏名ならびに符箋の部分については、金春商会代表者本人尋問の結果(第一、二回)により、いずれも真正に成立したことが認められ、その余の部分については、成立に争いがない甲第一、二号証、証人庄野好忠(原審第一、二回)の証言(ただし、後記措信しない部分を除く。)金春商会代表者本人尋問の結果(第一、二回)を総合すれば、金春商会は昭和三〇年六月末現在において、庄野好忠に対し、前渡金および貸付金債権数十万円を有していたが、右商会代表取締役橋本禎夫がその頃庄野好忠から、右債権の内入れとして、右(1)の白地手形および(2)の白地手形の譲渡を受け、その白地部分については、右(1)の白地手形に、振出日を昭和三〇年六月二〇日、受取人を株式会社金春商会と書き、振出人のところは、大阪市南区松尾町一八番地株式会社金春商会代表取締役橋本禎夫と書いて捺印し(以下「(1)の完成手形」という。)、右(2)の白地手形に、振出日を昭和三〇年七月五日と書き、受取人および振出人のところは、右と同一に補充し、(以下「(2)の完成手形」という。)、右(1)および(2)の完成手形を、それぞれ、その満期に支払場所に呈示したが、支払を拒絶されたことが認められ、右認定に反する証人庄野好忠(原審第一、二回および当審)、同庄野キクミの各証言は、前掲各証拠と対比し、たやすく措信できない。また、橋本禎夫が庄野好忠に領収書を交付していないこと、橋本禎夫が右(1)(2)の白地手形の譲渡を受けた当時、控訴人の信用状況を知らなかつたことをもつてしても、右認定を左右するに足りない。

他に、右の各認定を動かすに足りる証拠はない。

そうすると、金春商会代表取締役橋本禎夫が右(1)(2)の白地手形の譲渡を受けると同時に取得した補充権の内容の一部は、控訴人と庄野好忠との間の約束によるところの、振出人のところを庄野好忠名をもつて補充することであり、右橋本禎夫のなした右補充は、右約束に違反するものである。しかし、かように、白地手形を取得した所持人が、自ら補充をなし、その補充が予めなされた合意と異なる場合にも、手形法一〇条の定の適用があると解すべきであり、(最高裁判所第二小法廷昭和三六年一一月二四日言渡判決参照)、本件においては、右橋本禎夫が右(1)(2)の白地手形についての、右認定のごとき補充権を取得するにあたり、その内容が、同人のなした右補充事項と異ることにつき、同人に悪意または重大な過失があつたとの主張立証がないから、結局、控訴人は右補充が控訴人と庄野好忠間の約束に違反することをもつて、金春商会に対抗することはできないというべきである。

次に、控訴人が抗弁として主張しているところについて考えるに、

控訴人は、右(1)(2)の白地手形は融通手形であり、右橋本禎夫はこのことを知りつつ右手形二通を取得したから、控訴人は同人の支払請求に応ずる義務はないというが、右二通の手形の引受人である控訴人は、被融通者である庄野好忠に対してはともかく、それ以外の所持人である金春商会に対しては、その者の善意悪意を問わず、融通手形であることをもつて、支払を拒み得ないというべきであるから、右主張は、理由がない。

また、控訴人は、右(1)(2)の白地手形は、庄野好忠が金春商会に貸したものであから金春商会は、控訴人に対する手形上の権利を取得していない旨主張し、証人庄野好忠(原審第一、二回、当審)および証人庄野キクミの各証言中には、右主張に副うごとき部分があるけれども、金春商会が庄野好忠から右(1)(2)の白地手形の譲渡を受けたものであることは、前認定のとおりであるから、右主張は、理由がない。

そうすると、控訴人に対し、右(1)(2)の完成手形の金額合計金一九三、〇〇〇円およびこれに対する(1)の完成手形の満期後の日であり、(2)の完成手形の満期であ昭和三〇年八月一〇日以降右完済にいたるまでの、手形法所定の年六分の割合による法定利息の支払を求める被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容した原判決は相当である。

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